大天使に聖なる口づけを
「お父さんはこのこと知ってるの?」
母の笑顔はもっと寂しそうになる。
けれどエミリアのその質問にも、確かに肯定の意味で頷き返してくれた。

「そうか……」
ただただエミリアを見つめ続ける母の表情は少女のように儚げで、まるでこれ以上何かを言ったら、泣きだしてしまいそうだった。

同じことをアウレディオも思ったらしく、紅茶を飲む格好はそのままに、エミリアに視線だけで、(もう止めろ)と命令してくる。

(ディオに言われなくたってわかってる……だって私はお母さんの娘なんだから……)
同じく視線だけで言い返すと、エミリアはせいいっぱい声の調子を明るくして、母に向き直った。

「じゃあ、もういいや。お母さんが私のお母さんであることには変わりはないんだし。うん、もういいよ」

見る見るうちに母の大きな瞳から涙が零れ落ちた。
感極まって椅子を立ち上がり、エミリアに駆け寄ってくる。

首に縋りつくように両腕を回して、栗色の頭を抱きしめた。
「ごめんね、エミリア……黙っててごめんね。寂しい思いさせてごめんね……」

母の華奢な腕にぎゅっと抱かれながら、エミリアはぼんやりと、この十年間のことを思い出していた。
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