大天使に聖なる口づけを
母が煎れ直してくれた温かい紅茶のカップを手に、エミリアは落ち着いてもう一度、椅子に腰を下ろす。

向かいあって改めて眺めてみると、確かに母は天使以外の何者でもなかった。
よく絵の中の天使が着ている白いズルズルとした服を着せてみたなら、そのまま教会に飾られている宗教画にだってなれそうだ。

「お母さん、本当に天使なんだね……」
しみじみと呟くエミリアに、母は少し誇らしそうに微笑む。

「そうよ。天界っていうところから来たの。神様がいらっしゃるところね」
さも当たり前のことを言っているかのような口調に、エミリアもアウレディオも思わず目を見開いた。

「神様って……本当にいるの?」
「もちろんよー。お母さん、これでもじかにお会いできるぐらいのところでお勤めしてたんだからー」

誇らしそうに胸を張られても、いったいどんな反応を返せばいいのかよくわからない。
「へ、へええ」
エミリアの返事は少し乾いたものになってしまった。

その様子に、隣でアウレディオがふうっとため息を吐く。
いかにも、(なんだよその返事……)と言いたげな態度に、エミリアは少しムッとした。

(だって……他になんて言ったらいいのよ……?)

ところが母は、そんな二人の剣呑な雰囲気になど気づいていないらしく、とても有り得ないような話を、さも当たり前のように意気揚々と続ける。
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