大天使に聖なる口づけを
「お母さんねー、本当は十七年前に大切なお仕事があって、人間界に来たの」

(に、人間界……?)
エミリアは再び疑問の呟きを漏らそうとしたが、隣に座ったアウレディオに軽く足を蹴られた。

ムッと目を向けると、大きな蒼い瞳が、(いいから黙ってろ。話が進まないだろ)
と語っている。

その迫力に気圧されて、
(はい……)
エミリアはすごすごと言葉を呑みこんだ。

「でも失敗しちゃって、というかお父さんと出会ってしまって……」
両頬に手を当てて、陶器のような白い肌をほんのりとうす桃色に染める母は、エミリアの目から見ても少女のように愛らしい。

しかし恥らいながらも嬉しそうに、父との出会いから思いが通じあうまでの恋物語を延々と聞かされていると、エミリアとアウレディオのほうが、母よりもよほど赤面してしまう。

「お父さんと恋をして、エミリアも生まれて、人間界でこのまま暮らしたいなーなんて思ってたんだけど……それはやっぱり簡単にはできないことだったの……」

薔薇色のロマンスからいっきに十年前のあの日へと、エミリアは意識を引き戻された。
――エミリアの七歳の誕生日。

前日まで『プレゼントは何にしよう?』とか『料理は何がいいかしら?』と本人以上にとても楽しみにしていた母は、当日エミリアが学校から帰った時には、忽然と姿を消してしまっていた。
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