大天使に聖なる口づけを
「でも、どうしてそこに私の助けが必要なの?」

その質問はどうやら、母にとってはかなり痛いところを突くものだったらしい。
急に挙動不審にそわそわし始め、綺麗な翠色の瞳を宙に泳がせて、言い淀む。

「それは……エミリアが私の娘だから……」

「…………? さっぱりわからないよ?」
首を捻るエミリアに、どう説明したものかと困る母に、アウレディオが助け舟を出した。

「天使は大勢いるんだろ? なのにどうしてリリーナは一人でミカエルを捜してるんだ? ひよっとして他にも、人間に紛れてミカエルを探してる天使がいるのか?」

もしそうだとしたら、隣にいる人を見る目も変わってしまいそうな問いかけに、母はきっぱりと首を横に振る。

「いいえ。ミカエルを捜してるのは私一人よ。大勢で来たってミカエルは見つからないもの。私じゃないとわからないの……私は神に選ばれた『聖なる乙女』だったから、必ずミカエルに惹かれて恋をするはずだったの……」

思わずエミリアとアウレディオは顔を見あわせた。
言った母のほうは、赤くなった頬を両手で押さえて恥らうように俯く。

「本当に私の初恋はミカエルだったの。行方不明になってるミカエルのお父様のミカエルね。だから私ならきっと見つけられるだろうって、神様もお思いになったんでしょうけど……私はもっと大切な人を見つけてしまった。そして、ミカエルを連れ戻す術もなくしてしまった。だけど、私の娘のエミリアなら……」

「ど、どうしてそこで、私の名前が出てくるの……?」
嫌な予感に、エミリアは体中から変な汗が噴き出してきそうな感覚を感じていた。
ドクンドクンと鳴り始めた心臓を必死に落ち着かせながら、じっと母を見つめる。
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