大天使に聖なる口づけを
「じゃあ結局、お城には行くのね?」
説明を聞きながらも黙々と手を動かしていたフィオナは、エミリアの最後の長い嘆きが終わると同時に、冷静にそう尋ねた。

エミリアは力なく頷く。
「うん。夕方ディオが来たら、一緒に行く予定になってる……」

「アウレディオね……」
フィオナは長い睫毛を伏せて、一瞬手を止め、何かを考えこむようなそぶりを見せた。

対峙する相手のことを、性格から考えていることまで、ほとんどオーラの色で判別できるフィオナだったが、彼女にも苦手とする相手はいる。

――それは、『オーラが見えない人間』。
実はアウレディオは、そんな数少ない人物の中の一人だった。

「昔から何を考えているのかさっぱりわからないのよね……」
心持ち困ったような表情のフィオナに、エミリアは恐る恐る尋ねる。

「できればフィオナにもついてきてほしかったんだけど……やっぱりディオと一緒じゃ嫌?」
小さな頃からアウレディオに対してだけは、フィオナははっきりしない微妙な評価を与えている。

心配げに見つめるエミリアに向かって、フィオナの黒目がちの大きな瞳が妖しく輝いた。
「いいえ。興味深くご一緒させてもらうわ」

意味深な微笑みに多少の不安を感じなくもないエミリアだったが、初めてランドルフに会いに行くのに、アウレディオと二人でというなんとも気まずい状況だけは、これで回避できることになった。

しかし問題は、何の接点もない近衛騎士のランドルフと、一介の町娘に過ぎないエミリアが、いったいどうやって面会するのかということである。

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