大天使に聖なる口づけを
「あいかわらず、大騒ぎなこと」
挑発的な視線を投げかけたフィオナには一瞥もくれず、真っ直ぐにエミリアに向かって歩み寄る。

「ちょっと……」
失礼な態度に眉を寄せたのはエミリアばかりで、フィオナはそんなことにはまったく頓着しなかった。
ただただ無表情にアウレディオを見ている。

アウレディオは二人の目の前に、すっと一枚の紙切れをさし出した。
「これに申しこんだからな」

それは街で時折配布される、木版刷りの印刷物だった。

『エテルバーグ王国の王都、このリンデンで、まもなく年に一度の感謝祭が催される。
それに伴い城を警護する衛兵を増員する。
腕に覚えのある者はこぞって応募されたし。
管轄は近衛騎士団。
担当は近衛騎士ランドルフ・ウェラード』

「これって……!」
蒼白な顔をしてわなわなとわら半紙を握りしめるエミリアに、アウレディオは顔色一つ変えずに言い放った。

「エミリアはエミリオ。フィオナはフィリス。明日から俺と三人揃って、お城の見習い衛兵だ。いいか、少なくとも目的を果たすまでは、女だなんてばれないでくれよ」
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