大天使に聖なる口づけを
臨時衛兵の仕事というのは、そんなにたいへんなものではなかった。
祭りの時限りの増員なのだから、当然と言えば当然である。

主な仕事は城の周囲の見回りと、通用口の警備。
エミリアたちに割りふられたのは、城壁の西側の通用口だった。

祭り当日の人出を考慮して、少しゆっくりとした歩調で城の周りを見回る。
それでも元いた場所に帰ってくるまでに、それほど長い時間はかからなかった。
残りの時間は近くにいる者たちと談笑して、通用口の周りで形ばかりの警備の時間を過ごす。

指導者であるランドルフは、城の周辺に怪しいものがないかを確認しながら、緊張気味の臨時衛兵たちといっしょに、何周も何周も城の周りを巡っていた。

単調な仕事を厭わない様子にも、みんなの気持ちをほぐそうとしきりに声をかけてあげている様子にも、エミリアはただただ感動するばかりだった。

(ランドルフ様って本当に素敵な方だな……)

しかし、そう思えば思うほど変に意識してしまい、自然に話すことは難しくなっていく。

フィオナがことあるごとに、
「どう? もうキスできる?」
「まだやらないの?」
とくり返したが、そんなこと、できるはずもなかった。

「今日会ったばかりの相手といきなりキスなんてできるはずないじゃない! ……しかも私は今、男の子なんだよ。それでなくたって緊張するばかりで、話だって全然まともにできないのに……!」

全隊共通の休憩時間になり、ひさしぶりに一緒になったアウレディオの顔を見て、ついにエミリアの怒りが爆発した。
半ば八つ当たり気味の言葉が、次々と口から飛び出す。

膝を抱えて座りこんでしまったエミリアを、黙ったまましばらく見下ろしていたアウレディオは、そのままふいとどこかにいなくなってしまった。
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