大天使に聖なる口づけを
「明日はランドルフ様の好きなもの作ってきます。何がいいですか?」
声が裏返らないようにと気をつけながら、せいいっぱいの勇気をふり絞っての言葉だった。

しかしふとエミリアに目を向けたランドルフは、なぜか次の瞬間、首まで真っ赤になってふいと視線を逸らす。

(え? 何? 私なにか変なこと言った……?)
訳もわからずうろたえるエミリアから身を引くように、ランドルフはその場に立ち上がった。

「そ、そろそろ時間だな。私はこれで失礼する」
慌てたように城のほうへと去って行く背中は、ついにそれきり、一度もふり返らなかった。

「どうしたんだろう? ……ねえ、私なにかした?」
困惑するエミリアに、アウレディオは何も答えてくれない。
ただ何かを考えこむかのように、エミリアのクッキーと小さくなって行くランドルフの背中を交互に見つめている。

フィオナはというと、エミリアの周囲に視線を巡らせながら、さも納得したかのように、
「ああ」
と頷くばかりだった。

「何か知ってるんなら、私にもわかるように説明してよ!」
焦るエミリアに、アウレディオは感情の読み取れない冷たい顔を向け、

「別になんでもないだろ」
とランドルフのあとを追って、去って行ってしまった。
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