大天使に聖なる口づけを
エミリアはなぜだか事実をごまかすように、慌てて言葉を継いだ。

「男の子はあんまり甘いもの好きじゃないかなって、思ってたから……」

フィオナは納得したのかしなかったのか、空を仰いで呟いた。
「それはそうね」

二人の間に、なんとも気まずい空気が流れていく。

少し変わり者ではあるが、小さな頃からいつも傍にいてくれ、今回のように困った事態にも何も言わずつきあってくれるフィオナは、エミリアにとってかけがえのない親友だ。
そんな彼女に咄嗟に嘘をついてしまった自分が、エミリアはどうしようもなく嫌になる。

「フィオナ」
「何?」

呼びかけると、いつものように簡単な返事がすぐにあった。
そのことに深く感謝しながらも、それでもエミリアは、本当の理由を口にする気にはなれなかった。

(ディオはどうしてあんなことを言ったんだろう?)

アウレディオの真意がわからないことが、こんなにもエミリアを不安にさせる。

自分にとって絶対に変わらない、どんなものにも揺るがないと信じていた何かが、足元から崩れていくようで、頭が真っ白になり、何も考えることができなかった。

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