大天使に聖なる口づけを
空気を震わすようにして鳴り響いた鐘の音に、寝台の上で丸くなって眠っていたエミリアは、もっそりと体を起こした。
(うん……もう朝?)
両腕を伸ばして大きく伸びをする。
枕元近くの張り出し窓からは、早くも朝陽が射しこみ始めていた。
窓の向こうからはピイピイと、うるさいほどの小鳥の声。
「いっけない!」
慌てて寝台から滑り下りたエミリアは、まずは机の上に飾ってあった小さな絵に、いつものように朝の挨拶をした。
「おはよう。お父さん、お母さん」
しゃれた額に収まったその絵には、若い男女が描かれている。
父の絵の師匠が描いてくれたものだというが、いったい何年ぐらい前に描かれたのだろうか。
よそ行きの上着を着て生真面目な顔をし、直立不動の体勢で立っている父は、エミリアが毎日顔を会わせている父と比べると、まだずいぶんと若い。
しかし、父の前に置かれた肘かけ椅子にたおやかに腰かけている母は、エミリアの記憶に残る母の姿そのままだった。
流れるような金髪に、透き通った白い肌。
宝石のような翠の瞳は零れ落ちるほどに大きく、薔薇色の小さな唇は、まるで微笑のお手本のように美しいカーブを描く。
(お母さん……)
子供の頃ならともかく十七歳にもなった今では、エミリアにも少し、母が変わった人物であるということがわかってきた。
(少なくともお父さんと会ったばかりの頃と、私が七歳の頃と、見た目が変わらなかったってことよね?)
何度考えても、首を捻らずにはいられない。
(それって、けっこうすごいよね……もし今もお母さんがこの家にいたら、どうだったんだろう? ひょっとして、まだこの絵と同じ外見だったりして……)
想像してみたことは、ずいぶんと久しぶりだった。
(うん……もう朝?)
両腕を伸ばして大きく伸びをする。
枕元近くの張り出し窓からは、早くも朝陽が射しこみ始めていた。
窓の向こうからはピイピイと、うるさいほどの小鳥の声。
「いっけない!」
慌てて寝台から滑り下りたエミリアは、まずは机の上に飾ってあった小さな絵に、いつものように朝の挨拶をした。
「おはよう。お父さん、お母さん」
しゃれた額に収まったその絵には、若い男女が描かれている。
父の絵の師匠が描いてくれたものだというが、いったい何年ぐらい前に描かれたのだろうか。
よそ行きの上着を着て生真面目な顔をし、直立不動の体勢で立っている父は、エミリアが毎日顔を会わせている父と比べると、まだずいぶんと若い。
しかし、父の前に置かれた肘かけ椅子にたおやかに腰かけている母は、エミリアの記憶に残る母の姿そのままだった。
流れるような金髪に、透き通った白い肌。
宝石のような翠の瞳は零れ落ちるほどに大きく、薔薇色の小さな唇は、まるで微笑のお手本のように美しいカーブを描く。
(お母さん……)
子供の頃ならともかく十七歳にもなった今では、エミリアにも少し、母が変わった人物であるということがわかってきた。
(少なくともお父さんと会ったばかりの頃と、私が七歳の頃と、見た目が変わらなかったってことよね?)
何度考えても、首を捻らずにはいられない。
(それって、けっこうすごいよね……もし今もお母さんがこの家にいたら、どうだったんだろう? ひょっとして、まだこの絵と同じ外見だったりして……)
想像してみたことは、ずいぶんと久しぶりだった。