大天使に聖なる口づけを
エミリアは一呼吸置いて、一言一言言葉を区切ってゆっくりと語りかけた。

「増員の警備兵に志願した人たち、みんなとっても嬉しそうです。ランドルフ様が親身になって、一つ一つ丁寧に仕事を教えて下さるから、たかが増員なんて思わずに、みんな懸命に働くんです。気づいてますか?」

そういえば、ずっと以前に誰かに、『相手にしっかりと気持ちを伝える時には、目を見て、自信を持って一言一言ゆっくりと話すのよ』と教えられたことがある。
大事な場面ではエミリアはいつも、その言いつけをちゃんと守ってきた。

――あれは、そう、きっと母だったのかもしれない。


「ランドルフ様は、自分が先頭に立って働いています。誰が見ていなくてもその態度はずっと変わらないです。そんな人のあとだからみんなついて行きたいって思うんです。多くの兵に慕われるランドルフ様が騎士らしくないなんて、そんなはずないでしょう?」

ランドルフの灰青色の瞳が、日の光を反射した時のようにキラリと輝いた。
エミリアはその光に、自分の中の信念が彼に受け入れられつつあることを感じた。

「失敗とか忘れ物の話も、逆に親近感を覚えました。人間味があるっていうのかな……失敗をしたことがある人間だからこそ、相手の失敗を許せる。そうは思いませんか?」

知らず知らずの間に満面の笑顔になっていたエミリアに、ランドルフも負けないくらいの笑顔を向けた。

「確かに。騎士としてふさわしくありたいと自分が努力しているから、本当は断らなければならない衛兵志願者も、ついつい受け入れてしまった……」

「ランドルフ様?」
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