大天使に聖なる口づけを
なんだか今、とんでもないことを聞いた気がする。

呆然と王子の顔を見つめるエミリアに、王子は大きく破願した。
「はははっ! 君って本当に見ていて飽きないなあ。今まで近くにいなかったタイプだ。うん、やっぱり気に入った。私の傍にいてくれるね?」

ザッと、なぜかアウレディオが立ち上がった。
射るように鋭くした蒼い瞳で、真っ直ぐにフェルナンド王子を見据える。

「そいつに何かやらせたいこことがあるんですか?」

不遜とも取れる言い方に、王子は腹を立てたりはしなかった。
その代わり、すっと真面目な表情になって、ずっと握ったままだったエミリアの手をようやく開放する。

「ああ。……どうやら彼女には、察しのいい騎士がついているようだね。よかったら君も一緒に来てくれるかい?」

「僭越ながら、謹んでお断りさせていただきます。俺はともかく、そいつを危ない目にあわせるわけにはいきません」

身も蓋もない返答に、王子は小さく肩を竦めた。
不敬罪として、この場で捕らえられても文句は言えないようなアウレディオの態度だった。
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