あの夏に見たあの町で
プロローグ
いつの頃からか
よく同じ夢を見る
それは幼い頃の...記憶にもほとんど残っていない程に遠い頃の夢
高校卒業までを過ごした、今も実家がある山間の田舎町
蝉が煩く鳴く季節
実家の真裏にある高台の公園の端に聳え立つ大きな木
男の子と2人でその木に登り目の前に広がる深い緑の山々と青く澄み渡る空のコントラストと小さく見える町並みに「うわぁキレイ」と感嘆の声を上げ
太い幹から出るしっかりとした枝に、幹を抱きしめるようにして座り
幹の反対側に座る男の子と話したり、笑ったり、景色を眺めたり...
男の子は私のことを「あーちゃん」と呼び、私は男の子のことを「さくちゃん」と呼んでいた
空がオレンジ色に染まり始める頃に男の子の「帰ろっか」で木を降り始める
しかし私が高い所から降りるのが怖くて動けずにいると、男の子が抱っこをしてくれた
正確には私が男の子にギュッとしがみついていた
ゆっくりと確実に近付いてくる地面に恐怖心も薄れ始めた時
ガクンと揺れ、落ちる
そして毎回、地面に叩きつけられる前に目が覚める
目覚ましを止め、体を起こし、胸をさする
この夢を見た後はいつも胸がチクチクする
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