あの夏に見たあの町で



震える体を抑え、なんとか近くにあった扉から会場の外へ出た




その場にしゃがみ込み、体をきつく抱きしめる





彼は専務の有栖川朔(ありすがわはじめ)だ




新じゃない



新がここにいる筈がない







浅くなっていた呼吸をゆっくりと深くしていく






体が落ち着きを取り戻してきた頃、会場から盛大な拍手の音が聞こえた





専務のスピーチが終わったのだろう





すぐにパーティーが始まる





ということはこの扉も人が出入りする可能性がある




よろよろと左手に見えるお手洗いに向かう









パウダールームの大きな鏡に写る青白い顔




隅に設置された小さなベンチに座り俯く







エレベーターに乗る前に張本さんが「びっくりした」と言っていたのを思い出した





あぁこれのことかと納得した






社内で新の顔を知ってるのは彼を私に紹介した張本さんしかいない






彼女も初めて専務を見た時に、新を見ている感覚になったのかもしれない









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