あの夏に見たあの町で
どれくらいそこにいたのかわからなかったけど、パーティーも始まったし、今日はもう専務を見ることはないだろうと会場に戻るためお手洗いを出た
「高山ありす」
突然背後から呼ばれ足を止める
声の主は見なくてもわかる
新と同じその声は専務のもの
嫌でも速くなる鼓動に胸を抑えながら、専務の顔を見ないように俯き加減で振り返る
「っせ...専務、ご就任おめでとうございます。何か御用ですか」
なぜ私の名前を知っているのか...そんなこと聞けるはずもなく、専務の足もとを見つめる
「俺のスピーチの途中で退出とはいい度胸してんな」
そう言いながら、距離を詰めてくる専務
近付く距離にまた小さく震え出した体は無意識に後ずさる
「申し訳ございません」となんとか絞り出すも、壁に追い詰められる
顎を掴まれ上を向かされる
それでも専務の顔を見ないようにと視線は空を彷徨う
「俺を見ろ」
専務の言葉に一瞬で彷徨う視線は捕えられてしまった
3年ぶりに見る新と同じ顔に
勝手に涙が溢れ出し、止められない