あの夏に見たあの町で
苦しそうに顔を顰めた専務は掴んだ顎はそのままに私の唇に自分のそれを重ねる
どうして...
抵抗しても離してくれる様子もなく、力では叶わない
新の優しいキスとは違う、荒々しく貪るようなそれなのに
3年振りの感覚に思考が活動を停止する
やっと解放された私は酸素を求め肩で息をする
「罰としてこれは没収」
その手にはいつの間にか私の耳から外されていたイヤリング
「かっ返してください」
新から25歳の誕生日に貰った誕生石であるエメラルドが使われたイヤリング
『ありすの瞳と同じ色』とくれたそのイヤリングを私は大切に毎日身につけた
それを取り上げたこの男は、戦利品に唇を寄せ恍惚の表情を浮かべる
そして一言「いやだ」と口にして、パーティー会場へと消えて行った
呆然とその場に立ち尽くし
追い付かない思考に涙を拭う
会場に戻る気にはなれず、そのまま帰宅する
風呂場に入り、熱めのお湯を頭からかぶり、唇に触れた
見た目も
声も
匂いまでも
新と同じなのに
荒々しく貪るような口付けに
新とは違う人なのだと実感した