あの夏に見たあの町で
その空いているデスクに座り、薄型のノートパソコンを開き仕事をしているのは紛れもなく
専務
その傍らに立つ背の高い男性が私に気づく
何故ここに専務?
役員は10階に専用の部屋があるはず...
背の高い男性が専務に何やら耳打ちをすると専務がこちらを一瞥し開いていたノートパソコンを閉じた
そして立ち上がり、動きを止めていた私の方へ歩いてきた
「高山ありす」
昨日と同じように私の名を呼ぶ
ハッとして「おはようございます」と小さな声で呟く
もう専務を見ても新だとは思わない
昨日の一件で脳は理解したらしい
「行くぞ」
そう言って私の鞄を奪い、フロアを出る
「えっ!?ちょっ専務!行くってどこに」
私はまだ自分のパソコンすら立ち上げてないんですけどぉ!?
鞄を持って行かれてしまったので無視するわけにもいかず、専務を追いかける
「視察だ」
専務から返ってきた答えに目が点になる
えーと...今、視察とおっしゃいました?
「パスポートも出張の準備も何もしてないんですけど...」