あの夏に見たあの町で
走り出した車内で、掌に乗せられたそれをまじまじと見つめる
私の掌には、透き通った真紅の大粒なルビーがあしらわれたカフリンクス
「きれい...」
思わず出てしまった言葉に専務はクスと笑う
「気に入ったんならやるよ」
「昨日エメラルドもらったしな」と不敵に笑う
そう言えば、昨日没収されたままだった
「あれは返してください」
新にもらった大切な大切なものだから
「俺と結婚したら返してやるよ」
は?
不敵に笑う専務を睨みつけ
「しません!」
と言い切ると専務は「ははっ」と声を出して笑った
人をからかいやがってぇ!!
掌のカフリンクスをぎゅうっと握り締める
まだ笑い続ける専務はハンドルを持ち替えながらカッターシャツの袖を捲り上げる
程よく筋肉がついた引き締まった腕が顕になる
顔も良くてスタイルも良くて外国語もできるということは頭も良くて地位もあって...
神様は不公平だってつくづく思う
ふと、顕になった右腕の捲られた袖から古い傷痕が覗いているのが目に入る