あの夏に見たあの町で
“ごちそうさまです”と言いながら差し出された手に自分のそれを乗せると優しく包まれた
“経費だけどな”
イタズラに笑う専務にこちらまで吹き出してしまった
再びサウナ状態になっていた車に乗って、今度こそ新館予定地を目指す
進行方向からして、市街地の中心から車で1時間程のところにある温泉地
日帰りの温泉施設もあって、私も実家で暮らしていた時は家族でよく遊びに行った
“温泉地にホテルですか?”
質問してから、まだフランス語で話していたことに気付いた
“ホテルのシステムを活用した大型温泉旅館にするつもりだ”
路肩に車を寄せて停め、後部座席から最新のタブレットを持ってきた
専務ぅ...いくら日本と言えど、高級車の後部座席にタブレット置いてたら車上荒らしに遭いますよぉ
しかも炎天下のサウナ状態だったわけで、壊れちゃいますよぉ...
私の心の声は専務に届く筈もなく、新館計画の詳細が開かれたタブレットを渡された
タブレットを受け取ると再び車は走り出し、目的地へ向かう