あの夏に見たあの町で
いつの間にか目的地の温泉地へ到着し、この地域で唯一のバスターミナルの横に作られた観光客用の駐車場に停められていた
車を降りて、タブレットは専務に渡し、新館の建設予定地へ歩き出す
エリア担当者がここまで必死に創り上げてきたこの計画を潰さないために、専務は視察に来たはず
私を連れてきたのは、私がこの場所を社内で誰よりも知っているから
“ここの温泉地は良くも悪くも『山奥』なんです。土地は川のすぐ手前までありましたよね?”
まずは難点を克服するための確認をしなくてはいけない
タブレットで確認した情報では、バスターミナルから徒歩5分程の好立地に敷地への入口があり、建物の裏側に当たる所に川が流れる
“ああ、見に行ってみるか。草だらけだけど...”
まだ手が付けられていない荒れ放題の土地に草を掻き分けながら踏み入れる
前を歩く専務はスーツを着て革靴にも関わらず、歩き易いようにと掻き分けた草を踏んで道を作ってくれている
しばらく歩くと“危ねっ”と専務が止まった
川の手前まで来たのだと思って、少し...否、だいぶ後ろに下がって尋ねた
“あのぉ、専務、川はどんな感じです?”