あの夏に見たあの町で
振り返った専務が離れていた私を見て笑いを堪えるように言う
“そんなに後ろにいたら見えないだろ?”
しかし高い所が苦手で専務が立つ位置から覗き込むなんて想像しただけで変な汗が背中を伝う
“いや...あのっ...状況が知れればそれで充分です”
両手を振ってそこには行けませんとアピールする
が
2歩で距離を詰められ、振っていた手を掴まれ引っ張られ崖っぷちに立たされる
咄嗟に目を固く瞑り、下を見ないようにした
“目開けろよ”
堪えきれず笑いながら言う専務に首を振って答える
“ちゃんと手持っててやるから”
掴まれていた手が更に強く包まれる
恐る恐る閉じていた瞼を上げる
手前の浅瀬から深くなっていくとゴツゴツとした岩場
川底まで透き通った清流に、キラキラと反射する光に目を奪われる
と同時にその高さに腰が抜け尻餅をつきそうになったところで専務に抱えるように支えられる
“すみません...私には高すぎますが、ちゃんと下りられるように整備すれば川のアクティビティはできそうですね”
専務に支えられたおかげで落ちなくて済んだ
安堵に息を漏らす