あの夏に見たあの町で
“変わんねぇなぁ”と呟き穏やかに笑った専務に何故かタブレットを渡されて、抱き上げられる
え?
え!?
えええ!?
俗に言うお姫様抱っこというものをされて宙に浮いた私は咄嗟に片手でタブレットを抱え、もう片方の手で専務にしがみつく
“せせせせせ専務!重いから下ろしてください”
焦って懇願するも、専務は“まぁ許容範囲だろ”なんて憎たらしいことを言って、来た道を戻り始めた
下ろされたところで自力では歩けなさそうなので、落とされないようにしがみつく手に力をこめる
“心配しなくても落とさねぇよ”
軽く言って退ける専務の肩越しに、緑豊かな山々とどこまでも青い空を見た
あ...
“あの...専務”
“ん?”
“全室露天風呂付きなんて無理ですかね?”
そうだ、今は昼間だから思い出せなかったけど、日が落ちれば余分な明かりがないから、満天の星空が広がる
“...費用はかかるけど、売りにはなるよな。検討してみよう”
私と同じ様に空を見上げた専務は目を細め微笑んでいる
結局、車までお姫様抱っこで運ばれてしまい、通りに出てからは人目もあり恥ずかしかった
専務相手になんて失態を...と心の中で猛省する