あの夏に見たあの町で
“毎回同じ夢で、さくちゃんとこの木に登ってこの町を見下ろして、下りる時に落ちるっていう...”
そう言えば昨夜の夢は続きがあった
さくちゃんの右腕からの出血...
“っ専務の右腕の傷...”
俯いていた顔を専務に振り返らせる
まさかあの時の傷が残って...
“何泣きそうな顔してんだよ。言っただろ?この傷は『生まれて初めて大切なものを守った時にできた傷』だって”
優しく微笑みながら、私の頭にその右手をポンと乗せる
“この怪我をしたすぐ後に生活が苦しいからって俺だけ母親に捨てられて、ジジイのとこに引き取られたおかげで大きな病院でちゃんとした治療とリハビリも受けさせられて、差し支えなく動くようになった。傷痕も目立たなくできるとも医者に言われたけど、これはお前を守った証だから残すって決めた”
そう言って専務が立ち上がると同時にゴロゴロと雷が鳴り、突然バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた
ポツポツと降り始めたわけではなくて、いきなりドバーッと降ってきた雨に大きな木の下から出ることも躊躇われ
ただ、木の葉から滴り落ちてくる大量の雨水に濡れていくお互いの顔を見合わせるだけ