あの夏に見たあの町で
俺はありすにドレスを着せてやれなかった
あの日
仕事でお客さんのところに行かなければならず、いつもは電車通勤のところを車で出勤した
ありすが待つ家に帰るために、会社から徒歩5分くらいのコインパーキングで車に乗り込もうとした時
隣に駐車した車から降りてきた男と目が合って固まった
そこには俺と同じ顔
「...朔?」
朔が祖父母に引き取られてから一度も会っていなかったけれど、自分と同じ顔なんだからひと目でわかる
「悪い悠貴、先に行っててくれ」
一緒にいた男性に一言残し、朔は俺の方へ近付いてきた
「久しぶり」
高級車から降りてきて、高いスーツを纏い不敵に笑うその姿に、愕然とした
すぐ近くの喫茶店に入り、コーヒーを2つ頼む
「今は何してんの?」
俺よりも遥かに上を行く弟に問う
「ジジイにこき使われてるよ」
テーブルに頬ずえを付いて自嘲する朔
「大学卒業してから世界中を転々とさせられて、業務の立て直しやら新規オープンやら土地探しやらね」
いずれは祖父の有栖川グループを受継ぐのだろうか