あの夏に見たあの町で


俺はありすにドレスを着せてやれなかった




あの日




仕事でお客さんのところに行かなければならず、いつもは電車通勤のところを車で出勤した




ありすが待つ家に帰るために、会社から徒歩5分くらいのコインパーキングで車に乗り込もうとした時



隣に駐車した車から降りてきた男と目が合って固まった




そこには俺と同じ顔




「...朔?」




朔が祖父母に引き取られてから一度も会っていなかったけれど、自分と同じ顔なんだからひと目でわかる




「悪い悠貴、先に行っててくれ」



一緒にいた男性に一言残し、朔は俺の方へ近付いてきた




「久しぶり」



高級車から降りてきて、高いスーツを纏い不敵に笑うその姿に、愕然とした





すぐ近くの喫茶店に入り、コーヒーを2つ頼む




「今は何してんの?」



俺よりも遥かに上を行く弟に問う



「ジジイにこき使われてるよ」



テーブルに頬ずえを付いて自嘲する朔



「大学卒業してから世界中を転々とさせられて、業務の立て直しやら新規オープンやら土地探しやらね」



いずれは祖父の有栖川グループを受継ぐのだろうか






< 40 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop