あの夏に見たあの町で
「今日だって友人の婚約披露パーティーに出るためだけに、さっき着いて、終わったらすぐにトンボ帰り」
肩を竦めて見せる朔だけど、一般市民の俺には眩しかった
「新は?」と俺を見る視線に、自分の掌が汗ばんでいることに気付く
「俺はしがないサラリーマンだよ。朔とは住む世界が違う」
悔しいけれど、これが現実だ
「でも、再来月に結婚するんだ」
これだけは前を向いて言える、狡い俺
「高山ありすって朔の会社の子だろ?友達に紹介されて知り合ったんだけど、ひと目でわかったよ。6歳の時に朔が言ってた女の子」
喫茶店に入ってからそれまで余裕のある表情を変えなかった朔の眉が少しだけ動いた
ああ、やっぱり
ほんの僅かな瞬間、優越感に浸る
「へぇ良かったな、おめでとう。あの頃は友達もいなくて寂しそうだったから幸せにしてやれよ」
そう言って笑う朔に急激に押し寄せる罪悪感
どこまでも余裕気なその姿に悔しくて、「じゃあ、ありすが待ってるから帰るわ」とそそくさと店を出た