あの夏に見たあの町で
まだ二十歳のご令嬢は、十歳の時に高校生だった俺達の学園祭で俺を見てからご執心らしい
まだあどけなさの残るこのご令嬢に俺の心は1ミリも動かない
「朔くんは結婚はまだなんだろう?うちの娘はどうた?」
酒も入っていて、上機嫌で娘を薦めてくるオッサンに心の中でゲンナリする
後方の窓際にいるだろう悠貴に向かって、体の後ろで左手を親指と小指のみ立てて振り、電話しろの合図を必死で送る
「僕なんていつ帰ってこれるかもわかりませんし、まだまだ結婚は考えられませんよ」
好きでもない女と結婚するのも、樹を義兄と呼ぶのも真っ平御免だ
その後もしつこいオッサンをのらりくらりと躱しているとズボンのポケットでやっとスマホが震え始めた
「すいません、仕事の電話なんで失礼します」とその場を足早に去る
会場の扉を抜けると、悠貴が電話を切りながら「お疲れ」と苦笑した
「遅せぇよ」ガックリと項垂れ額に手を当てる
あー疲れた
「帰るか」
カナダに...