あの夏に見たあの町で


昨日のように目を背けたり、顔色が悪くなったり震えたりといった様子がないことから、俺が新ではないと理解したらしい




「行くぞ」と逃げられないように、鞄を奪ってフロアを出る




視察に行くと言うとパスポートがないだの国内は担当じゃないだのまだ今日の業務が終わってないだのと言い出したので



「今日は新館予定地の視察で、お前こそが相応しい。あと、フランスからのメールはさっき返したし、金井にも伝達済みだからお前の今日必須の業務はもうない。」



と、回避する術を絶ってやると諦めたのか黙り込んだ




地下駐車場でエレベーターを降りると既にご令嬢を乗せた車が停まっていた




ご令嬢が降りてくる前に出ようと思い、ありすを急かし、助手席に乗せ、運転席に乗り込んだ




窓を開け、「悠貴、あとは頼んだ」とシートベルトをしながら言うと



「かしこまりました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」と秘書らしい言葉が帰ってきた





頼りにしてるぜ相棒!と心の中でだけ言って、ギアを入れブレーキから足を離し、発進させる




出だしはゆっくり動き、バックミラーで悠貴がご令嬢を乗せた車の前に立ったのを確認してからスピードを上げ地上へ出た







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