あの夏に見たあの町で


まだ通勤ラッシュで道路は混んでいたけれど、大きな渋滞もなく、高速道路も乗り継いで2時間ほど走ると



「ちょっと休憩しませんか?」


と隣から提案があり、そう言えばトイレにも行きたいと気付く



チラリと隣を見ると2時間も無言で助手席に座り続け、眠さの限界ですといった表情の彼女



「ああ、そうだな」と微笑まずにはいられなかった






すぐにあったサービスエリアに車を入れ、トイレを済ませ自販機で缶コーヒーを買った





山々に囲まれた景色が懐かしく、外の日陰のベンチに座り缶を開ける





6歳までは山なんて当たり前に近くにあったのに、今では遠く珍しく懐かしいものになっていた








日が高くなり気温も上がってきて、ジャケットを脱いで運転席に乗り込んだ




袖をまくるために外したカフスを彼女に預けるとそれを見て「きれい」と感嘆の声を上げた




専務就任祝いにと今朝、ばあちゃんがくれたものだった




真紅の石が光るそれは先週末にジジイと買いに行ったと嬉しそうに話すばあちゃんは可愛かった



ジジイはそんなことを暴露されて恥ずかしいのか顔を背けていたけど...




歳をとっても、若い恋人のように出掛けたりする姿はいいなと思う







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