あの夏に見たあの町で
今度こそ目的地である新館予定地に向けて走り始めた車は山間の市街地を抜け、さらに山の中を走る
進行方向でこの辺りをよく知ってる奴なら大体行き先の想像はつく
“温泉地にホテルですか?”と車内だから他の人はいないのにフランス語のまま問い掛けられた
彼女は日本語には特に問題はないが、日常的にフランス語の方が楽なのだろうか
車の通りがほとんどない道路の路肩に車を寄せて停め、後部座席に置きっ放しになっていたタブレットをありすに渡した
有栖川グループでも初めての『旅館』に興味が出てきたようで、タブレットのデータをじっくりと見ている
俺も昨日ざっと見たが、初の形態にしてはよく出来ている
ただし、訴求力に欠ける
この温泉地に行くのに、この旅館でなければならない理由が欲しい
有栖川グループ系列のファンというお客様もいる
そういった方に現場でお会いする機会もあった
彼らは有栖川グループというだけで来てくれる可能性は高い
だが、有栖川グループをよく知らない人を呼び込むには...新たにファンになってもらうためには...
都市型のホテルではないこの施設にはその要素が必要不可欠だ