あの夏に見たあの町で



咄嗟に顔も上げずに「すいません」と口にすると、「いえ、こちらこそ」と言ってエレベーターに乗り込んでいった高そうな濃紺ストライプ柄のスーツを着た男性





聞き覚えのある声に歩みを止めて振り返るが、エレベーターの扉は既に閉じてしまって、男性の顔は確認できなかった






聞き覚えのあるなんてもんじゃない




私の心が...体が...この声が好きなんだと、落ち着くんだと主張する






その声の主は新だ...






いやでも新は3年前に...と首を振って、目的地のカフェに足を運ぶ






新と同じ声を聞いてしまったから、休憩するはずの時間にずっと新のことを思い出してしまった





気付くと時計の針は2時30分を指していて、慌てて食器が乗ったトレーを返却口へ運び、8階のオフィスへ戻る










デスクに戻ると、朝のクール・ビズスタイルから一転、黒のスーツに爽やかな青のネクタイをビシッと着こなす金井さんが戻ってきていた




「すいません、遅くなりました」





フロア内は海外組も多数出勤してきていて、賑わっていた



「おう、行くぞ」



金井さんは私が戻ってきたのを確認し、慌てる様子もなく立ち上がる






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