あの夏に見たあの町で


あの頃も今も高いところが苦手なわけね



“変わんねぇなぁ”



そんな変わらない姿を見て、俺の心は少し嬉しくなる




そんな彼女を抱き上げて来た道を戻る





途中、“全室露天風呂付きなんて無理ですかね?”と空を仰ぐ彼女と同じ様に空を見た





6歳で都会に連れて行かれ、星が見えない夜空は寂しいものだった




この『山奥』で見ることができる満天の星空を、客室の露天風呂というプライベート空間で見てもらいたい




“検討してみよう”なんて言ったけど、必ず捩じ込んでやる









再び車で来た道を戻る




新館についてあんなのはどうか、こんなのはどうかと話し合っていたのに、急に静かになったと思ってチラリと隣を確認するとシートに沈み寝息を立てていた





起こしてしまわないように、丁寧に車を走らせる





向かったのはあの高台にある小さな公園





25年も前の子どもの頃の記憶だけを頼りに走る





町並みは多少変わっていたけれど、あの頃と変わらない場所に公園を見付け、ほっとした





車を停めて、助手席ですやすやと眠る彼女を眺める






< 80 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop