あの夏に見たあの町で
あの頃も今も高いところが苦手なわけね
“変わんねぇなぁ”
そんな変わらない姿を見て、俺の心は少し嬉しくなる
そんな彼女を抱き上げて来た道を戻る
途中、“全室露天風呂付きなんて無理ですかね?”と空を仰ぐ彼女と同じ様に空を見た
6歳で都会に連れて行かれ、星が見えない夜空は寂しいものだった
この『山奥』で見ることができる満天の星空を、客室の露天風呂というプライベート空間で見てもらいたい
“検討してみよう”なんて言ったけど、必ず捩じ込んでやる
再び車で来た道を戻る
新館についてあんなのはどうか、こんなのはどうかと話し合っていたのに、急に静かになったと思ってチラリと隣を確認するとシートに沈み寝息を立てていた
起こしてしまわないように、丁寧に車を走らせる
向かったのはあの高台にある小さな公園
25年も前の子どもの頃の記憶だけを頼りに走る
町並みは多少変わっていたけれど、あの頃と変わらない場所に公園を見付け、ほっとした
車を停めて、助手席ですやすやと眠る彼女を眺める