あの夏に見たあの町で
動きを止めてしまった彼女に苦笑して、大きな木の陰にあったベンチに座り、固まったありすにも座るよう促す
6歳の時にこの公園でひとりで遊んでいた女の子を見つけた話をすると
「さく...ちゃん」
あの時の呼び方で俺の名を確認する
「思い出した?『あーちゃん』」
肯定するように俺もあの頃の呼び方で彼女の名を呼ぶ
しかし、思い出したわけではなく、夢を見るのだと申し訳なさそうに首を振り俯いた
“毎回同じ夢で、さくちゃんとこの木に登ってこの町を見下ろして、下りる時に落ちるっていう...っ専務の右腕の傷...”
俯いたまま夢の話をして、俺の右腕の傷痕を思い出したらしく勢い良く顔を上げたありすと目が合った
“何泣きそうな顔してんだよ。言っただろ?この傷は『生まれて初めて大切なものを守った時にできた傷』だって”
今にも泣き出してしまいそうな顔に、優しく微笑み、頭をポンとした
怪我をした後に母親捨てられてジジイに引き取られ、腕は治ったことをざっくりと話し立ち上がった
さっきまで晴れていたはずの空は黒い雲に覆われ、突然に激しい雷雨に見舞われた