あの夏に見たあの町で



“ああ、お先に。ありすも早く温まった方がいい”




ありすと入れ替わりでソファに座ると、お母さんは風呂上がりだからと冷たい麦茶を出してくれた



ありすのお母さんは俺が座るソファに対しL字型に置かれたソファと同じ素材のスツールに腰を下ろす




“朔くん、お久しぶりね。25年前、ありすを守ってくれてありがとう。やっと、ちゃんとお礼を言えたわ”



優しい微笑みには母親としての温かさが溢れていた




“翌日にありすを連れて病院に行ったのだけど、もうおじい様と出てしまった後だったみたいで、空っぽになった病室には泣き腫らした目をしたお母様しかいなかったわ”




母親が泣いていた?


まさか



俺を捨てて清々したんだろう



“有り得ないって顔してる。でも本当に、お母様は貴方を捨てたかったわけじゃないのよ。
こちらの病院では貴方の腕の治療もできないし、費用もない。けど、おじい様の所へ行けば充分な治療とリハビリもできて、また支障なく動かせるようになる。
貴方が五体満足で不自由なく元気に生きててくれればいいと願って、絶縁状態のおじい様に頼ったのよ”





両手で顔を覆った




ありすのお母さんの優しい声だけが頭に響く






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