あの夏に見たあの町で


病院から出た車の中でジジイが言った言葉を思い出した



『腕の治療とリハビリをして、有栖川グループの後継者として教育を受けてもらう。それが母親との条件だ』




後継者として教育を受けさせられてきただけで、ジジイは俺に後継者になれとは言っていない




母親が病院で俺に帰ってきても場所はないと言ったのは、俺がリハビリから逃げないようにするため...?








“あの後ね、一週間くらいはありすから『さくちゃんは?』って聞かれてたのだけど、突然言わなくなったの。せっかくできた友達に怪我をさせて失ってしまったという記憶をしまい込んだのかなって...”



顔を上げると、ありすのお母さんは寂しそうに微笑んでいた




“あの子が新くんを連れて来た時は驚いたわ。出会いは偶然だったみたいだけど、新くんといるあの子は幸せそうだった”




そこまで話すと、コーヒー淹れるわねと空になったグラスを回収して、キッチンへと姿を消す






ソファに沈み天井を仰ぐ




ありすは新と一緒に過ごしていて幸せだった




新が亡くなって3年




新の弟である俺に関わられるのは...






すぐにコーヒーのいい香りがしてきた





コーヒーを2つローテーブルに置き、また元のスツールに座る





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