あの夏に見たあの町で
“あの子も1人の寂しさを知っている子よ。ちゃんと大切な物を選べるわ”
さ、ご飯の支度しなくちゃと立ち上がり、もちろん食べてくわよね?とニッコリと笑うお母さんに頷く他なかった
暫くするとありすもお風呂から出てきて、楽しそうに料理を手伝っていた
それをソファから振り返り眺めていると、玄関が開く音と“ただいま”と声が聞こえた
“お父さん帰ってきた”と玄関へパタパタと駆けていったのはありす
“朔くん、ご飯にしましょう”
キッチンからお母さんに呼ばれ、はいと返事をして立ち上がると、ありすと共に帰ってきたお父さんと目が合った
ありすと同じエメラルドの瞳に色素の薄い髪と肌は男の俺が見ても綺麗だと思った
“こんばんは。お邪魔してます”と頭を下げるとお父さんは固まったまま鞄をドサっと手から落とした
“あ...新くん?”
ああ、そうかお父さんとは初見だ
“新くんの弟の朔くんよ。ほら、ありすが4歳の時に木から落ちた時に守ってくれた男の子”
お母さんが説明をすると、“本当に?”と目を見開いて、次の瞬間俺の方へ物凄い勢いで近付いてきた
一瞬身構えた俺はキツく抱き締められた
“朔くん、ありすを守ってくれてありがとう!”
25年も前のことを覚えていてくれて
こんなにも感謝をしてくれていた
山間の田舎のこの町の
高台の公園の目の前の家の家族の記憶の中で
褪せることなく俺は生きていた