あの夏に見たあの町で
「高山ありすさん、ご挨拶が遅れ申し訳ございません。専務の秘書の有沢悠貴と申します。」
注文を終え、有沢と名乗った秘書は座ったまま丁寧に頭を下げた
それに倣い、私も頭を下げる
そこへお手洗いから帰ってきた張本さんが個室の戸を開ける
全員が注目した先には、引き戸を開けた体勢のまま固まった張本さんが目だけを瞬いている
「おかえりなさい、張本さん。僕らもご一緒させていただきますね」
爽やかな笑顔を浮かべた有沢さんは、入口で固まる張本さんに座るよう促した
渋々、私の正面に座り、恨めしく私を見詰める張本さんの目線から逃れるため、追加注文をするわけでもないけれどメニュー表を広げた
「あと刺し盛りとだし巻き玉子とどて煮と...」
メニュー表に隠れている間に専務と有沢さんのドリンクが来て、専務が私が開いているメニュー表を覗き込みながら追加注文をしていく
ち...
ちちちちち近いです専務!
ただでさえ隣の席で近いのに、私が独り占めしているメニュー表を覗き込むから顔がくっ付いちゃうんじゃないかっていうくらいに近い