幼なじみとナイショの恋。
それから何かを手に取ると、私に向けて『ん』と手を突き出した。
私は咄嗟に手を差し出す。
その上に、ひらりと一枚の花びらが乗せられる。
色がくすんで、何だかもうしわしわだけど、多分これは────。
『……桜の花びら?』
『願いが叶うって、お前が言ったんだろ』
『え?』
『結衣と“一緒にいられますように”ってお願いした』
『……っ』
私の現れなくなった公園で、そんな願いを叶えるため、必死にはるくんが落ちてきた花びらを追いかけていたのだと思うと、
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
はるくんのその願いを叶えられるのは、きっと……私しかいないんだ。
『っ…私もはるくんと一緒にいたい。一緒に……いる!』
その時、私はお母さんとの約束よりもはるくんの隣を選んだ。
正真正銘のお母さんへの裏切り。
お母さんを裏切ってでも、守りたい場所があった。
『うん。一緒にいよう。結衣が怒られるのは嫌だから、俺もお母さん達には秘密にする』
たとえ許されないのだとしても。
『二人だけの秘密な』
はるくんの隣にいたかったんだ……。
────それから10年。
「結衣」
お母さんと別れた後、昔のことを思い出しながら最寄りの駅へ向かっていた私は、改札前で呼び止められてはっと顔を上げた。
「はるくん……」
はるくんが、駅構内の柱に寄りかって立っていたのだ。