幼なじみとナイショの恋。
その沈黙がしばらく続くと、それまでずっと黙っていたはるくんが、ようやく口を開いた。
「……わかった」
その言葉に、はっと弾かれたように顔を上げる。
わかった……?
今、そう言った?
だけど、その驚きは、飛び込んできた目の前の光景により、更なる驚きに変わる。
やっと見ることができたはるくんの顔は、想像していたものとは違った。
今にも消えてしまいそうに儚げで。
泣いているんじゃないかと思うほど、切なげで。
私の大好きな真っ直ぐな瞳は、私を見ていない。
そこにはもう、私は映っていない。
10年間一緒にいて、初めて見たはるくんの表情だった。
「今まで、辛い思いさせてごめん。もう、結衣には関わらないから……」
呆然とする私の前から、ゆっくりと立ち上がるはるくん。
ゆっくりゆっくり、手の届かない場所へと離れて行ってしまう。
はるくんは教室の扉に手をかけると、一度ピタリと足を止める。
だけど、私を振り返ることはなく。
「じゃあね。結衣……」
その言葉を残し、教室を出て行ってしまった。
はるくんが出ていった扉を見つめながら、はるくんの足音が次第に小さくなっていくのを放心状態で聞いていた。
「……はる……くん……」
あんなに近くにいたのに。
いつだって隣にいたのに。