幼なじみとナイショの恋。

気づけば、向かいの家族の両親の間に座っている男の子が、私の顔を見て目を丸くしていた。



涙でぐしゃぐしゃだから驚かせちゃったかな?



慌てて涙を拭おうとすれば、その男の子は座席からぴょこんと飛び降りて、まだどことなくおぼつかない足取りに電車の揺れも相まってか、フラフラしながらこちらに歩み寄って来る。


お父さんお母さんが慌てて止めるも見向きもせず、男の子は私のところまでやって来て。



「たいの、たいの、とでけー!」



そう言って、小さな手で私の膝をなでてくれた。


それから男の子は、私に「ん」と手を差し出す。


慌ててそれを受け取ると、そこには何かのキャラクターを型どったラムネらしきものが1つ乗っかっていた。



「……私……に?」



そう訊ねると、零れるような満面の笑みを浮かべる男の子。


「あげゆ!」



あ。はるくんの笑顔にちょっと似てる……。



そんなことを思ったら、また涙が溢れてきてしまった。



「たいの、たいの、とでけー!」



……会いたいなぁ。


はるくんに、会いたい。


あの笑顔に会いたいよ。


この気持ちすらも、伝えられなくなってしまうことがあるのだということに、なぜ私は気づかなかったのだろう。



もう声が届かない?


何を言ってるの?


そんなの、勇気を出すのが怖い私の言い訳じゃないか。
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