幼なじみとナイショの恋。

だったら、これは結衣以外に目を向けるチャンスなんじゃないか?


いつまでも、立ち止まっているわけにはいかない。


俺は結衣を諦めなきゃいけないんだから……。



「はる……?」



不安げに俺を見上げる先輩。



先輩には、失礼かもしれないけど、先輩と付き合えば、何か変わるかもしれない……。



「俺……」



“俺でよければ、よろしくお願いします”



そう言おうと、先輩を真っ直ぐ見つめ返した。





────なのに。




「……っ」



────“はるくん!”


不貞腐れた顔の結衣。


いたずらっ子のように笑う結衣。


怒った顔の結衣。


涙を流す結衣。


笑顔の結衣。


結衣との思い出が次々と溢れてくる。


何でこんな時まで、俺の中は結衣でいっぱいなんだ。



「……っ、すいません……。俺、先輩とは付き合えません」



額に手を当て、今にも消えそうな声でそう言えば、先輩の体がゆっくりと離れていく。



「俺には、結衣のいない未来が想像できません」



解こうとすればするほど、絡まり合う糸のように、忘れようとすればするほど、俺の中は結衣でいっぱいになる。



「結衣以外を好きになる未来が、どうしたって想像できないんです」



いつだって、俺が思い描く未来には結衣がいた。


結衣がいない未来なんて、いらないと思った。
< 280 / 341 >

この作品をシェア

pagetop