幼なじみとナイショの恋。
そんなことを思いながら、ダイニングテーブルの上に用意されていたいちごジャムトーストを立ったままひとかじりした。
皿の横に添えられていた不動産会社のチラシを手に取り、モグモグと口を動かしながらその裏に書かれたメモを読む。
【戸締りはしっかりしてね】
「……行ってらっしゃい。お母さん」
“おはよう”とか“行ってきます”とか、そんな言葉がもう少しくらいあってもいいんじゃないかな……なんて、そんな思いはとうの昔に捨てた。
お母さんは世に言うシングルマザーというやつだ。
私、蒔田結衣(まいたゆい)は、3歳の時に両親が離婚した。
お父さんの顔は、正直よく覚えていない。
ただ、毎日のように二人が喧嘩をしていた記憶だけはある。
離婚をしてしばらくは、田舎のおばあちゃんの家で暮らしていたけど、私が小学校に上がるちょっと前に、今住んでいるこのマンションに引っ越してきた。
今私が住んでいるこの街は、お母さんが高校を卒業するまで住んでいた街らしく、またいつか絶対にこの街に住みたいと、お母さんは常々思っていたんだって。
引越しが決まった時に、一度だけお母さんがそう話してくれたことがある。