幼なじみとナイショの恋。
何だ。今日は人がいるのか……。
なんて、少しガッカリした気持ちでいれば。
『っ!』
ザァッ…という音と共に、春特有の強い風が桜の花びらを巻き上げた。
慌てて手で目を覆う。
風が通り過ぎたのを確認すると、俺は恐る恐る覆っていた手を退ける。
すると、目の前に現れたその光景に、今までに感じたことのないような胸の高鳴りを感じた。
『あ!待って待って!』
そこにいたのは、俺と同い歳くらいの女の子。
その女の子は、風に舞う桜の花びらを必死に追いかけているようだった。
背中まである長い黒髪は艶があってサラサラで、彼女が動くたびに踊るように風に舞う。
ピンク色の雨が降るその中で子うさぎのように跳ねる彼女の姿は楽し気で、今まで見たどんなものよりも愛らしくて、目が離せなかった。
胸の高鳴りが、速いテンポで心地良い音を刻んでいて。
目の前のこの光景こそ、母さんから貰ったあの宝箱にしまっておけたらって……。
そんな思いが頭をよぎったんだ。
そう。
それが結衣との出逢い。
その日から結衣は、俺のたった一つの宝物になった。
*
金曜日に行われた学年レクレーションから休日を挟み、二日経った日の朝。
「はぁ〜。もう最悪っ」
玄関で靴を履いていたら目の前のドアが開き、盛大な溜息をついた母親が入ってきた。