幼なじみとナイショの恋。

「じゃあ、行ってきます」と言おうとしたけど、「あ!ねぇ」とまた腕を捕まれてしまう。



「何?いい加減遅刻すんだけど」


「うん。あのさ?悠斗、結衣ちゃんと同じクラスなのよね?」


「そうだけど……」



母さんは、何やら言いづらそうに視線を泳がせて、それから意を決したように俺を見つめる。



「結衣ちゃんに、手を出しちゃダメよ」


「……は?何急に」



何を言い出すかと思えば……。



真剣な表情を向けてくる母さんは、どうやら思春期の息子をからかって遊んでいるわけではなさそう。



「この前、学校行事からびしょ濡れで帰ってきたのも、結衣ちゃん絡みでしょ?謝罪しに来てくださった先生も、クラスメイトの子を助けたっておっしゃってたから……」



学年レクレーションの後、古賀は保健の先生と念のため病院へ、俺と結衣は担任の車で送って貰うことになった。


担任は俺達のマンションの近くまで来ると『親御さんに謝罪したい』とか言い出して。


うちの親は気にしないからいらないって言っても、“大人には大人の事情ってもんがあるんだ”とか何とか語り出して、結局無理矢理家までついてきた。



『息子さんが、クラスメイトの女の子を必死になって探してくれて───』



担任は母さんにそう話していたけど、かろうじて結衣の名前は出なかった。
< 94 / 341 >

この作品をシェア

pagetop