幼なじみとナイショの恋。
「じゃあ、行ってきます」と言おうとしたけど、「あ!ねぇ」とまた腕を捕まれてしまう。
「何?いい加減遅刻すんだけど」
「うん。あのさ?悠斗、結衣ちゃんと同じクラスなのよね?」
「そうだけど……」
母さんは、何やら言いづらそうに視線を泳がせて、それから意を決したように俺を見つめる。
「結衣ちゃんに、手を出しちゃダメよ」
「……は?何急に」
何を言い出すかと思えば……。
真剣な表情を向けてくる母さんは、どうやら思春期の息子をからかって遊んでいるわけではなさそう。
「この前、学校行事からびしょ濡れで帰ってきたのも、結衣ちゃん絡みでしょ?謝罪しに来てくださった先生も、クラスメイトの子を助けたっておっしゃってたから……」
学年レクレーションの後、古賀は保健の先生と念のため病院へ、俺と結衣は担任の車で送って貰うことになった。
担任は俺達のマンションの近くまで来ると『親御さんに謝罪したい』とか言い出して。
うちの親は気にしないからいらないって言っても、“大人には大人の事情ってもんがあるんだ”とか何とか語り出して、結局無理矢理家までついてきた。
『息子さんが、クラスメイトの女の子を必死になって探してくれて───』
担任は母さんにそう話していたけど、かろうじて結衣の名前は出なかった。