幼なじみとナイショの恋。
この気持ちを消せと言うのなら、そっちのがよっぽど“辛い思い”だろ?
「……まぁ、大丈夫だから」
そんな風に曖昧な返事をすると「行ってきます」と言って今度こそ俺は玄関を出ていく。
母さんがまだ何か言いたそうにしていたけど、気づかないふりをして。
*
「───で、あの時の古賀さんがめっちゃくちゃ可愛くてさ!!」
その日の昼休み。
俺は翔吾と一緒に中庭に来ていた。
売店で買った惣菜パンを頬張りながら、スマホゲームをする俺の前で、なにやら興奮気味な翔吾。
「あのいつも強気な古賀さんが、雨に濡れてプルプル震えててさ!小さい声で“来てくれてありがとう”ってお礼言ったんだぜ!?もう、俺の庇護欲に完全火がついたよね!!やべぇ、やべぇよ!もうこれ完全に恋ですから!!」
「……」
この話を聞かされるのは、今朝からかれこれ何回目になるんだか。
いい加減鬱陶しくて、もう相槌さえ打つ気も起きない。
翔吾は学年レクレーションの日、とうとう古賀に恋に落ちたらしい。
元々タイプだとは言っていたけど、ちょっと頼りにされたくらいでバカみたいに舞い上がって。
知ってはいたけど、こんなに簡単なやつだったとは……。呆れるを通り越して哀れだわ。