君と特別な日を過ごす方法 ～長谷川誠の苦悩～

「それはダメ。まだかかりそう？」
優しく微笑んだ莉乃の言葉に俺は頷くと、

「明日までにどうしてもバクを修正しないといけないから」

「そう、じゃあ私今日は自分の家に帰るね。だから気にせず仕事して。でも、無理はしないでよ」
真剣な瞳で言った莉乃をもう一度ギュッと抱きしめると、莉乃を解放した。

「結婚式の準備も任せっぱなしで本当に悪いな。もう少しで落ち着くと思うから」

「大丈夫よ。私は副社長が仕事をしやすくするための秘書ですから。プライベートも任せて。また決まったこととか、相談したい時は連絡するね」

「ああ、今日も帰ったら、莉乃が作ってくれたバレンタインのチョコレートケーキ食べるよ」
「ケーキばかりじゃなくて、ちゃんとしたものを食べなきゃだめよ。でも嬉しい。食べてくれて。張り切って大きいの作りすぎてごめんね」
少し申し訳なさそうに言って、小さく手を振った後、いつも通り秘書の顔で「失礼いたします」ときちんと扉の前で綺麗なお辞儀をする莉乃を見ながら、俺は本当に莉乃には敵わないな……そう思った。


何も言わず下げられたコーヒーの代わりに、おにぎりと緑茶が置かれている事を感謝して、それを急いで口にすると、もう一度難解なプログラムに目を向けた。


さあ、もう少し頑張るか……。