イジワル専務の極上な愛し方
オーガニックレストランは、外観が都会的な垢抜けた雰囲気で、オフホワイトが基調の明るい印象のお店だった。

籐で作られた椅子と、パステルカラーのテーブルクロスが飾られたガラステーブルが可愛らしさを演出している。

専務は、自分の身分を明かすことなく店員さんに人数を告げると、私たちは窓際のテーブルに案内された。

「専務、自己紹介などはしなくていいんですか?」

席に着き、小声で彼に問いかけると、小さく頷かれた。

「今度、会う予定の社長は、この店にいるわけじゃないんだ。あくまで、ビジネスの一つ。ヘタに名前を名乗ると、面倒くさいことになるから」

メニュー表を私に見せながら、専務はそう言った。面倒くさいって、なんだろうと疑問を持ちながらも、メニュー表に目を落とす。

自然派メニューが多く、サラダやピラフが気になった。

「田辺さん、ここは俺持ちだから、遠慮なく頼んで」

同じくもう一つのメニュー表を見ている専務が、ごく当たり前のように言う。私は思わずメニュー表を置き、専務に視線を移した。

「いえ、それはいけません。先日も、お支払いしていただきましたし、今夜は自分のものは自分で出します」

「気にしなくていいよ。これも仕事の内だし、プライベートで田辺さんを誘ったんじゃないから」

専務は、視線をメニュー表に向けたまま言っている。いくら相手が専務とはいえ、毎回奢ってもらうのは申し訳ない。それに、たまにとはいえ、専務とランチを外でするときは、必ず払ってもらっている。

やっぱり、ここは自分の分は自分で支払おう。心に強く決め、彼に向かって言った。

「プライベートで誘ったとしても、専務はご馳走してくださるでしょう? だったら、今夜は仕事の内ですから、自分の分は払います」

きっぱり口にすると、専務は私に視線を向けクックと笑った。

「田辺さんって、本当に変わってるな。こういうとき、女性はだいたい喜ぶんじゃないのか?」

彼の笑う顔は嫌いじゃない。目元を少し下げ、甘いルックスがさらに甘くなるから。無防備なその感じは、ほんの一瞬だけ専務を身近な人に感じさせられるものだった。

「専務の周りにいる方たちは、みんな喜ぶんですか?」

逆に質問をすると、専務は笑みを浮かべたまま、小さくため息をついた。

「そうだな。みんな、とても喜ぶよ」
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