イジワル専務の極上な愛し方
すると、専務は照れくさそうに私を睨んでいる。そんな姿に、ますますクスクスと笑ってしまった。

「天然じゃない。だいたい、そういう女性しか俺の周りにはいないんだよ。そういうのが、当たり前だと思ってたから。ただし、田辺さんに会うまではね」

「え……?」

私に会うまではって、どういう意味だろう。本気で深い意味に受け取ってしまったら、専務に引かれるかもしれない。でも、軽く聞き流すこともできなかった。

「あの……」

”どういう意味ですか?”と、聞いてみればいいのに、どうしてもその言葉が出てこない。

途端に緊張が増してきて、専務を真っすぐ見られなかった。

「田辺さんってさ、彼氏いる?」

急に話題が変わり、戸惑いつつも首を横に振る。

「いえ。今は……」

「いないんだ?」

「はい。学生のときに、付き合っていた人がいて以来です……」

それも、その人が唯一付き合った人。さすがに、女性慣れしている専務には、それは恥ずかしくて話せないけれど……。

恋愛に奥手な私は、いつも好きな人を見つめるだけの毎日で、勇気を持って告白をしたことはなかった。だから、気がつけばいつも、好きな人には恋人ができていたっけ……。

元カレも、告白をされたのがきっかけだったし……。

「へえ。そうか……。好きな人は?」

「いません……」

なんで、そんなことを聞いてくるんだろう。ただの好奇心とも思えないくらい専務は真顔だし、質問の意図をどう受け止めていいのか分からない。

すると、専務が静かに言った。

「立ち入ったことを聞いてごめん。注文、どうしようか?」

「あ、はい。えっと……」

気になっていたピラフとサラダを伝えると、専務は店員さんを呼び料理を注文してくれた。軽いノリの専務もいたり、今みたいに急に真面目な雰囲気になる専務もいたり。

掴みどころのない彼に、心が振り回されている自分がいた。専務は、私の苦手なタイプなのに──。
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