イジワル専務の極上な愛し方
もう一度、そう聞かれて私は数秒口を紡いだ。

恋愛対象として、見られないかどうかで言えば……。

「そんなことはないです……。専務を、尊敬している部分もありますし。ただ、思いがけないお気持ちを聞いて、混乱しているというか……」

うまく説明できないけれど、まだ彼に対して“好き”という気持ちがあるのか分からない。

素直な思いを口にすると、専務は微笑んで言った。

「それなら、試しに付き合ってみないか? 俺は、田辺さんが好きだ。その気持ちをゆっくり分かってもらえたらいい」

「えっ!? 試しにって……。そんな、曖昧な関係でいいんですか?」

突拍子もない申し出に、目を丸くしてしまう。専務が、ここまで強引な感じの人だとは思わなかった。

普段、誘ってくる女性のことは、口うまくあしらっている雰囲気なのに……。

「十分だよ。田辺さんが、俺の彼女になってくれるなら、それでいい」

「専務……。どうして、そこまで? 私には、全然分からないです……」

戸惑う私の頬を、専務はそっと触れる。温かい彼の手の感触に、思わず胸は高鳴った。

「田辺さんと一緒にいられたら、どんなに楽しいかなって思って。味気ない毎日が、明るくなる感じがする」

そう言われて、私は小さく微笑んだ。

「ご期待に添えられるか、保証できませんから……」

そんなに、私を必要としてくれるんだ……。やっぱり、専務のことはよく分からない。

心のなかでクスッと笑うと、彼は真面目な表情に変わり、顔をゆっくりと近づけてきた。

「そんなことないさ。田辺さんの心を、俺のほうへ向けられるか、そっちのほうが大問題だ」

「専務……」

こういう始まりもあり……なのかな? 恋愛は、上手なほうじゃない。そんな私と一緒にいて、専務の心がどこまで続くのか。

不安もあるけれど、ここまで真っすぐに想いを伝えられたのは初めてで、拒むことができない。

そんな私の気持ちを見透かしてかどうか、専務はそっと唇を重ねた──。
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