イジワル専務の極上な愛し方
自宅まで送ってくれた専務と、別れる間際に連絡先を交換した。

明日もまた仕事。そう思うと、とても緊張してくる。今までとは違う関係──。

それを少しずつ自覚してきて、その夜はほとんど寝付けなかった。

◇ ◇ ◇

「おはようございます」

ドキドキしながら、専務の出勤を迎えると、彼はいつもどおりの落ち着いた雰囲気で私を見た。

「おはよう」

そして、なにごともないかのように、専務室へ入っていく。昨日、告白をされてから初めて顔を合わせるから、緊張していたのに拍子抜け。

もっと、なにかが違うかなと思っていたけれど、いつもとなにも変わらない……。

専務が出勤をしてくると、お決まりのコーヒーを入れることになっている。

彼がこだわっているメーカーのもので、それを用意するために立ち上がり奥の給湯室へ向かった。

「なにを、期待してたんだろ……」

よく考えなくても、業務中の専務が普段と同じなのは当然。いくら恋人同士になったからって、それで態度が変わるわけないのに……。

でも、思った以上に彼があっさりしていて、ちょっと寂しいと思う自分にも驚いてしまう。

「だめだめ、余計なことを考えないようにしなくちゃ」

専務と付き合うことになって、もしかして私……浮かれてるのかな。

心に喝を入れて、コーヒーを専務室へ持っていく。すると、専務はデスクでパソコンのキーボードを打っていた。

朝から忙しいみたい……。

「専務、コーヒーをお持ちしました」

「ああ、ありがとう」

デスクにカップを置く間にも、専務は黙々と仕事を続けている。私のほうへ、視線を向けることもしてくれない。

だけどそんなことは、日常茶飯事で、今まで気にしたこともなかったのに……。

いつものように黙って会釈をし身を翻した瞬間、専務に腕を掴まれた。途端にドキドキと胸が高鳴っていき、ゆっくりと振り向く。

すると、専務は含みのある笑みを浮かべて私を見ていた。

「よかった。思ったより、意識してもらえてるみたいだな」
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