イジワル専務の極上な愛し方
朝の甘い時間は、まるで夢でも見ていたかのように、日中の業務はいつもと変わらず進められた。

翔太さんも、私を呼ぶときこそ”田辺さん”から”彩奈”に変わっていたけれど、今朝のように強引になにかをしてくることはない。

私も照れくささを感じながらも、彼を”翔太さん”と呼んでいた。でも、本当にそれだけ……。

「彩奈、今日の業務は終われそう?」

二十時半になり、専務室から翔太さんがやってきた。私は、デスクの上の書類を収め終え立ち上がる。

「はい。明日のスケジュールの確認もしましたし、もう終われそうです」

改めて考えてみたら、いつも彼はこうやって私のことを気遣ってくれていたっけ。仕事の進捗状況を確認してくれて、大変なときはフォローもしてくれて……。

そんなことを考えていたら、思わずクスッと笑ってしまった。

「なに? なにか楽しいこと考えてる?」

私の様子にすぐ気づいた翔太さんが、笑みを浮かべて聞いてくる。それも、顔を近づけるように……。

一気にドキドキしてきたけれど、それは表に出さないでいよう。朝は、すっかり彼に見透かされていたから。

「いえ。改めて考えたら、私って秘書なのに、翔太さんに助けてもらうことが多々あるなって思いまして」

「どうしたんだよ、急に」

彼もどこか楽しそうな表情をして、私を引き寄せる。そんな彼の体を、優しく押し返した。

「今も、声をかけてもらったじゃないですか。そうやって、普段から気を遣ってもらっていたなって思いまして」

そう答えると、翔太さんは私の額にそっとキスをする。涼しい顔をしていようと決めていたのに、やっぱりドキドキしてしまった。

「それは、お前だからだよ。いつも仕事に一生懸命で、雑念もない。頑張る人間に手を差し伸べるのは、当然だろう?」

「そんな風に思ってくれていたんですね……。嬉しいです。翔太さんのイメージが、すっかり変わりました」

女性関係に派手そうな、苦手な専務だったはずなのに……。今は、こんなにときめいてしまうのだから不思議……。

「彩奈が持っていたイメージは、それほど間違っていない。俺は、相手がお前だから、こうやって素顔を見せているだけだ」
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